コミュニケーションや情報普及のメカニズムは、業界誌などではよく生物界の現象になぞらえて説明される。ときには伝染病に例えられ、ついには熟語として定着してしまったものさえある。バイラル・マーケティング、コンピュータ・ウィルス、社会的感染、伝染性のあるアイディアなどの表現では、いずれも生物学用語を使って情報普及プロセスの基本的特徴が示されている。
だが比喩には自ずと限界がある。特に社会的・商業的な大流行、金融市場におけるバブルの発生と崩壊、大ヒット商品、政治・社会革命などのプロセスは、単に「感染」だけでは説明しきれない。これらの現象は「インフォメーション・カスケード」あるいは「社会的感染」と呼ばれるプロセスを経て広まっていくが、情報が伝わる様子は病気が感染するときとは相当に違う。
ビジネスの現場では、広告キャンペーンの効果、ブランド維持戦略のあり方、革新的な製品が市場に普及する過程やアイデアが社内に広まる様子、社会でチェンジリーダーやアーリーアダプターの役割といったものに関心が高いが、これらを深く理解するためには情報拡散のプロセスを詳しく調べるべきである。
社会的ネットワークの力学を探る研究者は、製品が成功を収めるためには、品質や価格以上にその概念または言葉の普及における社会的ネットワークのプロセスが重要であるケースが数多く見られるとしている。残念ながら、現段階では未だこうした社会的ネットワークの力学の特性を解明、定量化を行い理解するには至っていない。
(10ページ)(著者:Kermit M. Patton)
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